エッセイ:巌家の風景(長女まやと長男たっくんの成長の記録)

巖家の風景

 

2003

 

“まやのおてがみ”

 

 また戦争が始まってしまった。テレビ画面からは、時々刻々と戦況が伝えられてくる。ある日、4歳の娘が突然“お手紙を書く!”と言い出した。覚えたてのぐちゃぐちゃのひらがなで、まだ書けない字は“どう書くの?”と尋ねながら1通の手紙を書き終えた。“明日出す!”という。

 “せんそうしているひとへ。せんそうはあぶないからやめてください。やさしくなってください。せんそうしないようにまほうをかけてください。まやより。いわおまや。”

 まだおむつも卒業できないような幼子が、テレビ画面に映る戦争を見て小さな心を痛めていたのである。この戦争を引き起こしてしまった大人たちにも、このような心を持った子供時代があったのであろうか。YES! 私はそう信じたい。この心を大切に育ててやることができれば、いずれ地球から戦争はなくなる。

 

2004

 

“たっくんのデブリドマン”

 

 ある朝、妻が息子のたっくんを抱いたまま転んで右の肘と膝を深くすりむいてしまった。しっかり泥が入っていたので、病院で局麻下にブラッシングをした。たっくんは、泣きながらその一部始終を見ていた。

 数日後のとある晩、居間の方から“ギャーッ”と、とんでもない悲鳴が聞こえてきた。飛んでいって見ると、風呂上がりに創処置をしているはずの妻が、右膝を両手で押さえてうなっている。そばには歯ブラシを持ったたっくんが笑って立っていた。な、なんてことを・・・。

 

“まやの救急車”

 

 4歳の娘のまやは、我が家の救急隊員だ。指を切ったらすぐサビオを持ってくる。おでこをぶつけたら“冷やすの”といって濡らしたティッシュを持ってきてくれる。その素早いことといったら・・・。

 ある夕食時、私は誤って虫歯で魚の骨を噛んでしまい、あまりの痛さに口を両手で押さえて絶句してしまった。まやはさっそく行動に出た。冷蔵庫から冷たーい牛乳をコップに入れて持ってきたのである。目はうるうるしてる。真剣だ。

 ありがとう、まや・・・。でも、それじゃ・・・、治んない。

 

“たっくんのひな祭り”

 

 息子のたっくんの誕生日は33日、2歳になった。いわずと知れたひな祭り。さあみんなでお雛さまを飾りましょう。お人形並べて、小さなぼんぼりに点灯・・・。その時たっくんは両手を合わせて“なむ〜”とつぶやいた。そうか、ばあちゃんちの仏壇に似てないこともない・・・。

 

2005

 

“まやの鼻歌”

 

 “まやー、お風呂はいるよー、おいでー。”5歳の娘のまやが、何やら鼻歌を歌いながら服を脱いでいる。良く聞いてみると、聞き覚えのある曲・・・あっ、NHK大河ドラマ、新撰組のテーマ!

 

“たっくんの猿知恵”

 

 2歳の息子のたっくんが、お風呂から上がってはだかんぼで走り回っている。はたと動きを止めると、ちゃぶだいの上のお盆をじゅうたんのうえに置いて、少しガニ股になって、ちーっとお盆の中におしっこをたれた。“あーっ!、なにやってんのう!”私の怒号にたっくんはすかさず逃げ出した。あーあ・・・しかし、すごいぞ。一滴も外にこぼしてない。米国が誇る精密誘導兵器も真っ青の正確さだ。そういえばこないだじゅうたんの上におしっこたれてお母さんに怒られてたっけ・・・。いけないことだと学習したんだろうけど、お盆を置いてすりゃあいいってもんでもなかろう。賢いような、間抜けなような、息子の猿知恵に、妻と二人笑いが止まらなかった。

 

“おにぎりの歌”

 

 ♪あっいっうえーおにぎりー、きょーのおにぎりのなかみは?♪

たっくんは元気よく、“ぎゅーにゅー!”とこたえた。そう、たっくんは牛乳が大好き。もう一度歌った。今度は、“せっけん!”。なにっ、せっ、せっけん?もう一度歌ってみた。こんどは、”まくらー!“。そうか、我が息子は歌の意味を全く理解してなかったのだ。あほらしくて歌うのをやめた。

 

“食えるか、そんなもん”

 

 年末に夕食を食べながらテレビでNG大賞を見ていたときだった。たっくんがお漏らしをしてしまった。パンツを脱がされたあと、ぴょんぴょん跳ねて逃げ回っている。怒り心頭の妻は“たっくん!もうご飯終わりっ?早くっ、これっ、食べなさい!”と、ぐいっと替えのパンツを突き出した。妻よ、いくら良い子でもその命令だけは聞けないと思うぞ。NG!

 

“たっくんの夢”

 

 たっくんがボールペンでいたずらをした。自分の顔にながーいムカデ模様を書いてにこにこしている。“たっくん、何、それ?”とたずねたら、“ブラックジャック!”ほほーっ、“たっくん、おいしゃさんになりたいの?”すかさず、“ううん、仮面ライダー!”あっ、そう・・・。

 

“今どきの幼稚園児”

 

 まやとお風呂に入っていた。まやがバレンタインデーの出来事を自慢気に話をしてくれた。あさがお組のみすずちゃんがチョコレートのかわりに手編みのマフラーをしょう君に渡したいというので、まやがしょう君のお道具箱に入れてあげた。まやが代筆したお手紙も添えてあげたんだそうな。みすずちゃん、お気の毒に。まだ形も定まらない、ひらがなとカタカナがごちゃまぜの手紙の読みにくさときたら、古代マヤ文字に匹敵するであろう。みすずちゃんの気持ちがしょう君にうまく伝わらなかったことは想像に難くない。

 

2006

 

3歳児、恋の季節”

 

 ある晩、妻が“ねえねえ、たっくん、今、恋してるのよお。幼稚園の、ふたつ上のあかねちゃん。”と教えてくれた。そばにいた娘のまやが“そうそう、たっくんに、そんなに好きなら、ほっぺにチューしたら、って言ったら、ほっぺが真っ赤になったんだよー。”ほほー、たっくんの初恋かあ。ちょっとからかってみたくなって“たっくん、おっとう、あかねちゃんとお友達になろうかなー。”と言ってやったら、すかさず“だめー!”と断られてしまった。“したら、あみちゃんとお友達になろうかなー。”って言ったら、“いいよー。”だって。はっきりしてやがる。とどめに”そんなに好きならほっぺにチューすればー?“て聞いてやったら、ぷーってふくれて、下向いて魚の図鑑をめくりながら、”今いないっしょー“だって。いたらするのかよー、おめーは。

 次の日、たっくんたら幼稚園で“チューしよう”ってあかねちゃんを追いかけ回したんだそうな。しかし、熱い思いを受け入れてもらえなかったのは言うまでもない。たっくん、“しょーがねーやつ”で済まされるうちに、思う存分やっておけ。

 

“まやの天気予報”

 

 小学校一年生になった長女のまやの天気予報はよく当たる。“お空の雲がぁ、うろこ雲だからぁ、明日は晴れ!”とか、“あしたは、雨降りっ。2時間目が終わる頃からっ。”てな具合。でもある日、“まや、明日の天気は?”ってきいたら、何だか空を見上げてああでもないこうでもないと真剣に悩んだ揚げ句、“そう、あしたは、曇りかー、雨かぁ、はれっ!”むー、ぜったいあたる。

 

“歯抜けのまや”

 

 5月の8日に、初めてまやの右上の乳歯が抜けた。記念写真を撮って、抜けた歯は古来のしきたり通りに床下のネズミさんにプレゼントした。数日後、早くも永久歯が顔をのぞかせた。まやはニコニコしながら、“永久歯のエイちゃん生えるかなー。”だって。自分の歯にまで名前を付けるか、きみは。

 

“わらびもち”

 

 とある夏の日の午後、暑さでクテーッとしていた家族全員が突然色めき立った。♪つめたぁーくてっ、おいしーいよっ、わらびぃーもちぃー♪っと物売りの声。“わらびもちぃ?なにぃ、それぇ?”とまやが窓に駆け寄る。“わらびもちの行商っているんだぁ!”と妻。“わらびもちかぁ、いいなぁ、よしっ、食べよう!ほれっ、買いに行っといでっ!”早速まやが玄関を飛び出していった。財布を持った妻がまやを追っかける。“たっくんもいくう!”とたっくんも半べそで追っかける・・・。しばらくしてわらびもちを持ったみんなが帰ってきた。きな粉のかかった、プルルーンとした涼しげなわらびもち。みんなで輪になって眺めた。“500円のと300円のがあったけど300円のにひよっちゃった。”と妻。まずたっくんが口に入れた。食感が気に入らなかったのか、ベーした。たっくん以外で残りを食べた。“おいしいね。”“うん、おいしいね。”“懐かしいなー。昔は木の船のお皿に乗ってたんだよ。”“ところでさー、わらびもち屋のお兄さん、怪しいの。車のダッシュボードにインドかどっかの布敷いちゃってて、お香の匂いがしてた。”“うわー、あやしい!”などと言いながら最後にきな粉までなめきって宴は終わりとなった。

 ♪つめたぁーくてっ、おいしーいよっ、わらびーもちぃー♪。わらびもち屋の声がだんだん遠ざかっていく。まやが玄関を飛び出していった。車を追っかけていったようだ。しばらくして帰ってきた。“わらびもち、おいしかったから、お礼を言ってきたの。でもね、お客さん二人しかいなかったんだって。”そうかぁ、朝から半日働いて、うちで300円、もう一人で高いほうだったら500円、全部で800円かぁ。“500円のにしてあげればよかったねぇ・・・。”何となくしんみりしてしまった。その時、たっくんったら♪つめたぁーくてっ、おいしーいよっ、わらじーむしぃー♪だって。しんみりがふっとんだ。

 

“ガメラ”

 

 3歳の息子のたっくんは、恐竜が大好き。毎年恒例のプラモデル展示会のフリマで、売れ残っていたガメラを100円で買ってお土産に持って帰った。これが妻の生まれて初めてのプラモ作品となった。ガメラはたっくんが枕元に飾って寝るほどの一番のお気に入りになった。所詮はプラモデル、3歳児が持って遊ぶにはもろすぎる。腕がもげたり、ツメが折れてなくなったり、仕事から帰ってみると、毎日のように書斎(嘘!模型部屋!)の机の上にバラバラのガメラが置いてある。これを再生するのが日課になってしまった。たっくんの喜ぶ顔が見たくて、せっせと直す。ある日、修理のついでに、ツメとキバを白く、口の中をまっ赤に塗って、目玉を入れて、ついでに目玉を充血させてたっくんに見せた。たっくんは眼をキラキラさせて、両手でガメラを抱き寄せた。以後、ガメラはあまり壊れなくなった。ある日、これまでになく激しくガメラが壊れていた。妻がガメラの存在に気付かず踏みつぶしたものだと判明した。

 私が当直で家を空けた週末、それほど好きならと妻がガメラのビデオを借りて来てたっくんに見せたという。ガメラ対ジャイガー。子供の頃、劇場に怪獣映画を見につれて行ってもらえるほど裕福ではなかったので、当直の日にビデオを持ってって生まれて初めてガメラの映画を見てみることになった。今の肥えた眼で評価するのはあまりに酷だが、あえて言わせてもらえば筋は単純だし、特撮はかっちゃいし、役者の芝居は下手だし、どうしようもない。こんな映画でも、たっくんはガメラがやられる場面では涙を流して見てたそうな。もし子供の頃に見てたなら、同じくらい感動できたんだろうか。ガメラをそばにおいて眠るたっくんの寝顔が無性にかわいく思えた。

 

“キングギドラ”

 

 “模型屋さんに行く?”たっくんに振ったら、ぱあっと顔が明るくなった。娘のまやがおたふくになって寝込んでいたので、せっかくの休みも外に出ずじまいかぁ、なんてどんよりしてた日曜日だった。

 札幌には中古模型の店がある。買ってはみたものの作る気の無くなったプラモデル、買いすぎて家に置き切れなくなったプラモデルなんかをマニアたちから安く買いたたいて、適当な、時には法外な値段を付けて売っている。まあ、ともかく、そこに行って見た。それはそれは狭い店で、ろくに整理もせずに、模型や本が雑然と積み上げてある。そんな中からお宝を掘り出すのがスリリングなわけだが、チョロスケたっくんを連れてったもんだから、落ち着かないったらありゃしない。でも、チョロチョロしながらも、たっくんたら見てるところはしっかり見てるぞ。“おっとう、きて、きて。”って、手を引っぱられて連れて行かれた先には、キングギドラがいた。バンダイの、なかなか出来の良いやつで、気持ち高めのプレミアム価格がついていた。“買って〜”、“だめ!”、“買って〜”、“だめ!”の押し問答の揚げ句、自分も買い物をしてしまった手前、そんな身勝手が許されるわけも無く、子供は甘やかしてはいかんと思いつつも、ちょっとうれしくて、やっぱり買ってしまった。

 キングギドラは、妻の第2作目のプラモデルとなった。“なんで私が、こんなもん、作らなきゃいけないの!”って言いながら、下を向いて、唇をとんがらせているのは、妻が夢中になっているときの特徴だ。口を赤く、牙と爪を白く塗って、目玉を入れるのは僕の役目。そしてキングギドラは、たっくんの2番目のお気に入りとなった。

 ゴジラ対キングギドラのビデオを借りてきて家族みんなで見た。ゴジラはベーリング海で沈没した原子力潜水艦の放射能で復活し、野寒布岬付近から北海道に上陸し、別海町でキングギドラと戦ってこれを倒し、いきなり札幌大通り公園に出現して暴れまくる。テレビ塔を倒し、紀伊国屋書店の看板を粉砕し、地下街を踏み抜いてコケる。興味はなくとも、北海道民必見の映画だった。

 この映画で、たっくんはゴジラはもとよりキングギドラの大ファンになった。右手にガメラ、左手にキングギドラを持ったたっくん。2大怪獣の戦いは今日も繰り返される。

 ちなみにたっくんは“キングギドラ”ってちゃんと言えない。“チングジドラ”がせいいっぱい。これがまたかわいい。

 

“妻の優しさ”

 

 いろいろあって、落ち込んで、浴びるほど酒を飲んで家にたどり着いた夜中過ぎ。家族は寝静まっている。せめてシャワーでも浴びようと、風呂場に入った・・・。あれっ、いつもと違う。何となく空気が暖かい。浴槽のフタを開けて見ると、レンジでチンする、お風呂保温器が入っている・・・。

 暖かかった。ゆっくり湯舟につかって、いろいろ考えた。凍ってしまっていた心が、溶けていくような気がした。

 妻よ、ありがとう。君がいるから、僕は生きていける。

 

“まやの寝言”

 

 深夜、小学1年生のまやが寝言を言った。“やめて。”妙になまめかしい声だった。まやを挟んで向こう側に寝ていた妻が、しっかり聞いていた。“ふみちゃん、まや、襲ってない?”・・・“ごっ、誤解じゃ!”深夜の静寂を破る大爆笑。  

 翌朝、“なんか夢見てたの?”って聞いたら、たっくんにおもちゃ取られそうになってたらしい。案外つまらん。

 

“ヒヤリハット”

 

 たっくんのあごに小さい紅斑ができた。妻が、“おっとうに薬塗ってもらいなさい!”って言うから、たっくんが、なんかチューブを持ってきた。たっくん・・・それ、ボンド。

 

2007

 

“ジブリのCD

 

 まやとたっくんに、大好きな“となりのトトロ”などスタジオジブリのアニメ映画の主題歌を集めたCDを買ってあげた。車に積んであって、どこへ行くにも、ほとんど掛けっぱなし状態。もう何百回聞いただろう。子供は頭がいい。いつの間にか歌を全部覚えてしまって、ずっと口ずさんでいる。小学校2年生のまやは、チャゲ&飛鳥の“on your mark”や加藤登紀子のシャンソンを、そっくりな節回しでまねして歌っている。年中さんのたっくんは、幼稚園でブロック遊びをしながらユーミンの“ルージュの伝言”を口ずさんでいるのを先生に聞かれちまって、大絶賛の大受けだったという。その記憶力、もちょっとまともなことに使って欲しいなあ。

 

“魔女になりたい”

 

 小学校2年生のまやは、お天気魔女だ。去年の十五夜、厚い雲がかかって月がちっとも見えなかったのに、でもせっかくだからと近所の公園に繰り出して、小山に上って、まやが絵本に載ってた呪文を唱えると、ありゃまあ、雲がパカって割れて、真ん丸のお月さまが顔を出した。小学校の授業中でも、似たような奇跡を起こしたらしい。先生に、“やるよっ”って宣言して。降ってた雨がやんだって。

 ある晩、手品のテレビ番組を見ていて、まやがぼそっと、“ほんとの魔女になりたいなあ”って言った。“まやは、お天気魔女だけど、他の魔法が使えないの・・・”。

“まや、それはかなり難しいね〜。おっとうも、おっかあも、マグル(注1)出身だし。”“そうそう、それにね、日本人の魔法使いって、なかなかいないっしょ。絵本でも、映画でも、魔法使いはみんな外人だし。日本の魔法学校だって、聞いた事ないしねー。”“そうだね、ホグワーツ(注2)はイギリスだし。まず英語勉強しなきゃ。ハリーポッターが読んでるホグワーツの教科書は全部英語だからねえ。”まやは明らかに困惑している。これをきっかけに、英語、がんばる、とでも言ってくれりゃ、親としても安心なんだが。残念ながら、まやが行っている子供英語教室、生徒が集まんなくて、今月いっぱいで閉めるんだそうな。いい先生だったのに。それにしても、まやが、こんなほほえましい会話が出来る少女でいられるのも、あとちょっとなんだろうなー。

(注1)マグル:英国の超人気ファンタジー小説“ハリーポッター”シリーズでの用語で、魔法使いの血を引いていない普通の人のこと。

(注2)ホグワーツ:同シリーズに出てくる、由緒正しく、かつ最高峰の魔法学校の名前。

 

“おたまじゃくし”

 

 新篠津の田んぼに、毎年恒例、農協主催の田植え体験に行った。今年は、なぜか、ドジョウとオタマジャクシを触って遊べるコーナーがつくってあった。まやもたっくんも大はしゃぎ。靴脱いで、パンツまで水に浸かって、ばしゃばしゃやってる。

 行事が終わって、さあ帰ろうと車で子供たちを待っていると、まやとたっくんが、2本のペットボトルにオタマジャクシを20匹ばかり入れて帰ってきた。“おまえら、それ、どおすんだ?”ときいたら、飼いたいという。僕は、自分の始末もろくにできないようなやつが動物を飼うのは大反対なので、即座に“だめっ”と怒鳴りつけた。妻が子供たちに助け船を出した。“いいじゃないのお”。

“まあ、いいかっ”。僕は簡単に折れてしまった。動物を飼うのは、子供の時から結構好きだった。

 帰りがけにホーマックによって、小さな水槽と、玉砂利と、金魚藻を買って帰った。水槽の準備は、予想通り僕がやる羽目になった。水は、カルキ入りの水道水しかなかったので、押し入れから、おフランスのミネラルウォーターを引っ張り出し、水槽に満たした。オタマ達には過ぎた待遇だ。その中に、オタマ達を放り込んだ。どういうわけかサンショウウオも2匹(後に4匹と判明)混ざっていた。

 水の中を、な〜んも考えずに、へろへろ泳ぐ姿は、なんて言うか、今で言う、癒し系だ。まやと、たっくんと、妻と、4人で、じーっと見つめる。実にいい。

 餌をやる事にした。ご飯粒、皮をむいたミニトマト、かつおぶし。集まって、むさぼり食う姿がまた可愛い。たっくんの幼稚園の先生が、ご飯粒を食べたオタマジャクシは白いウンコ、ミニトマトを食べたオタマジャクシは赤いウンコをすると言ってた。本当だった。

 これまた予想通り、子供たちは、オタマの世話といったら、餌やりくらいしかしない。そのかわり、結構横着者のはずの妻が、なぜか、甲斐甲斐しくオタマ達の世話をする。“私のオタマちゃんたち”と呼んでいる。子供の頃、オタマを飼っていて、今日は天気がいいから、暖かい外に出してやろうと、帯広の、炎天下の、コンクリートの上に、水槽を放置した。恐るべし、帯広の内陸式気候。たった1日でオタマ達はミイラになってしまった。その時の罪滅ぼし・・・なんだって。

 オタマ達にも旅立ちの時がやってきた。足が出て、手が出て、しっぽが短くなってきた。ジャンプもするようになった。吸盤で水槽の壁も登ってくる。何だか急にサイズが半分くらいになってしまう。妻に言わせると、おりたたまって体の中に収まっていた手足が、外に出るから、そのぶん体が急に小さくなるんだって。ほんとかいな。ともかく、ほとんどカエル体形になった連中から、数匹ずつ苗穂小学校のビオトープに放してやる事にした。まやが、このたくらみを小学校の先生に、うかつにも話してしまった。怒られた。ビオトープは手付かずの自然を再現するのだから、わざわざ動物を放しちゃいかんのだそうだ。札幌という、大都会の、小学校の校庭の、ビオトープ。充分人工的なような気もするが。まあ、それにもめげず、まやを忍びに仕立てて、毎朝カエルを放しに行かせた。飼えなくなって、ワニガメやら、アライグマやら、サソリやら、タランチュラやら、放す族がいる。巖家も似たようなものか。他人を批判する資格もないわ。

 ある日、まやが、ブルーになって帰ってきた。カエルが、1匹、踏みつぶされてぺしゃんこになってたんだって。新篠津に生まれ、札幌に死す。巖家に連れて来られなければ、また違った生き方もあったろうに。憎むべし、拉致、強制連行。もうオタマを飼うのは、これで最後にしよう。

 この悲しみもまださめやらぬある週末、今度は新発寒川から、僕主導でドジョウを2匹拉致してきた。広島生まれ、岡山育ちの僕にとっては、ドジョウは田んぼにいるものと決まっていた。ドジョウは、かなり劣悪な環境でも耐えると信じていた。さにあらず。翌日全員の死亡が確認された。主犯格は、未だに殺意を否認し続けている。

 

“そりゃそうだ”

 

 朝のNHKのニュースを見てたら、“岩見沢駅を語る会”って言うのがあるとかで、会員のおばさまが“駅って、たくさんの人が出入りして、(中略)、だから、駅って生き物なんですよね〜。”なんて言っていたのを聞いてた4歳児のたっくんが、“駅は生きもんじゃねえ”、と、ぼそっと吐き捨てるようにつぶやいた。魚や昆虫の図鑑を片時も放さないたっくんは、生き物にはちょっとうるさい。

 

“クラゲ風呂”

 

 まやとたっくんを、先に風呂に入らせた。電気もつけずに、何やらひそひそやっている。あとを追って入りに行った妻が風呂場の電気をつけた瞬間、“あんたたちっ、なぁにやってんのう!”という怒鳴り声。風呂に、冷えピタを漬けて、ふにゃふにゃにして遊んでいたのであった。風呂の中は、無数の微細な水色ゼリー状物質が浮遊する、クラゲ風呂と化していた。妻は、こういう修羅場で、驚くほど冷静だ。むすっとして(やっぱりかなりおこってる)、台所からザルを持ってきて、黙々とクラゲをすくってから、平然と湯船に体を沈めてしまった。子が子なら、親も親。

 

“伸びるスーツ”

 

 僕は模型作りが大好きだ。日本の模型人口は着々と減りつつある。世界に冠たる我が国の模型産業は僕たちが支えなくては。我が息子のたっくんも、一流の模型少年にしなければならぬ。そこで、まず手始めに、機動戦士ガンダムと言う、超人気アニメシリーズに出てくる“モビルスーツ”と名付けられた白兵戦用人型歩行兵器のプラモデルを、部品を枝から切り離さずに色を塗って、たっくんにプレゼントした。接着剤不要のキットだったので、妻に手伝ってもらいながら、たっくんはパチパチ何とか組み上げた。たっくんの初めての作品だ。色が付いてるから、結構鑑賞に堪える。劇場用の3部作のDVDも借りてきて見せた。ストーリーが難しくてほとんど理解してないようだが、ともかくガンダムは、たっくんの次なるお気に入りとなった。ビームサーベルや、ビームライフルといった武器を、付けたりはずしたり、いろんなポーズを付けては、バシッ!とかグワーッ!とか効果音を入れつつ、無心に遊んでいる。ほほ笑ましい限りである。

 さて、たっくんは、ちゃんと“モビルスーツ”と言えない。何度教えてあげても、“ノビルスーツ”としか言えない。運動不足、ビールの飲み過ぎで、腹部が急激に拡張し、とうとうメタボリック症候群の診断基準を満たしてしまった僕には、ほんとに欲しい、伸びるスーツ。

 

“アジエンス”

 

 風呂に入ったら、なぜかアジエンスがあった。テレビCMで、中国を代表する美人映画スター、チャン・ツィー・イーが出てくる、“結っても跡がつかない”、“世界が嫉妬する髪”のあのシャンプーだ。ビッグハウスで買い物をしてたら、まやがシャンプーコーナーで立ち止まって、アジエンスが欲しいという。“シャンプー、まだあるの!”といっても、どうしても欲しいというので買ったんだそうだ。妻も相当甘いなあ、と思っていた。しかし、まやに確かめて見ると、どうも話が違う。妻が自分の意思で買ったらしい。妻は僕に嘘までついて欲しい物を買うのか。たかがシャンプー如きで。困ったやつだ。

 まやの頭を洗ってやった。まやはたいそうご機嫌で、CMで流れている坂本龍一作曲のテーマソングをハミングしている。リンスを使うと、流してやる瞬間に、ほほー、やっぱり違う!茹で立てのソーメンを水にさらしてる感じ!たっくんの頭も洗ってやった。リンスを使わないでやめようとしたら、“何で付けてくれないの!”と怒った。“たっくんも、さらさらになりたいの?”って聞いたら、無言でうなづいた。かくして、巖家全員、髪の毛だけはチャン・ツィー・イーになってしまった。

 風呂から上がる時、まやが、“今度はパンテーンがいいなっ”だって。そうか、犯人はやっぱりおまえか。妻よ、疑って悪かった。

 

“守護星消滅”

 

 冥王星が、惑星でなくなった。水金地火木土天海冥。子供の時から慣れ親しんだ、このフレーズが、今や通用しなくなった。妻と、まやは、西洋占星術では冥王星が守護星だ。“まやはどうなるの?”まやは真剣だ。星が無くなるわけじゃないのに・・・。ネットで調べて見たら冥王星が発見されたのは1930年なんだそうだ。西洋占星術の歴史がどうなのか知らないが、やっぱりかなりいい加減!?。ともかく、これからもずっと、冥王星は冥王星、妻は妻、まやはまや。ちなみに僕は、守護星は太陽。しかしこれが、現実をまったく反映していない。この方がずっと問題が大きい。

 

 “ブラックサンタ”

 

 11月ともなると、子供たちもそろそろクリスマスプレゼントのことが気になってくるようだ。たっくんは土曜日の夕方テレビでやっているウルトラマンメビウスに出てくる怪獣が欲しいと言う。他にも欲しいものがある様だが、サンタさんには一番欲しいもの1つだけ、と教え込んであるので、二番目のリクエストは僕たちに来るのである。実は、わが家ではサンタさんから1つ、両親から1つと、合計2つのプレゼントが当たる習慣になっている。もらえて当たり前に考えているようなので、妻がある時釘を刺した。“おっとう、おかあさんからのプレゼントは、万が一ブラックサンタが来た時のためなのよ。”たっくんは凍りついた。あまりいい子でないことを、自分でも自覚しているようだ。僕が単身赴任してから、家の中を締める人間がいなくなったので、まやもたっくんも妻の言うことを聞かなくて困ると聞かされている。ちなみに、ブラックサンタのことを僕は知らなかったのでネットで調べてみた。

 “なんだか黒っぽいマントを羽織ってモコモコのお髭の怪しい人物こそ、通称「ブラックサンタ」ドイツ名「クネヒトループレヒト」といわれる、なんと悪い子専用のサンタクロースであります。ドイツでは、普段からおとうさん、おかあさんのいうことを聞かなかったり、お友達とケンカばっかりしていたり、他人の嫌がることばっかりしている子の家には、このサンタクロースが向かいます。たまによい子であっても、普段は悪い子という家には、木炭とか、石炭とかありがたくない贈り物を。かな〜り悪い子には、ベッドの上に血のしたたる豚の臓物など、ホルモン焼きの材料みたいなものをぶちまけられます。袋もたぶん防水処理加工とかされていると思います。クリスマスの朝、起きたら血まみれのベッドに寝ていたなんて想像するだけで卒倒しそうです。そして、親も先生も手がつけられないというほど悪い子の家には、空っぽの特大袋を持って現れます。・・・それ以上は、私の口からは言えません。“

http://ammo.jp/weekly/pay/0412/pay041215.html

 お〜、これは恐ろしい。まやが言うには、去年、お隣のまゆこちゃんのもとにブラックサンタが現れたのだそうだ。希望してたのよりずーっとちっちゃいプレゼント、なんとピン留めたった1つだったんだって。まゆこちゃん、もともといい子だが、これを機会にもっといい子になったのなら良いとして、あそこん家、そんなに金回り悪かったっけ?。いずれにしても、お気の毒・・・。

 

2008

 

“甚兵衛”

 

 ぎゃーっ!階段で、突然の悲鳴と号泣!たっくんがうずくまっている。“たっくん!どしたのっ?”・・・・・・“じっ、じっ、じんべいのなきどころ〜っ・・・”

 

“これで、いいのだ”

 

 たっくんがテストを持って帰ってきた。8+5=10+てな問題がずら〜っと並んでいた。たっくんはに13と書いて、他の問題もこんな感じでやっつけたもんだから、当然0点。おっかあに怒られ怒られ、全部問題をやり直して、2階への階段を元気よく登りながら、♪これで、いいのだ〜、これで、いいのだ〜♪と天才バカボンの歌・・・。全然反省してない・・・。

 

“鉛の兵隊”

 

 たっくんの鼻歌・・・♪鉛の兵隊、なめたら危険〜♪

 

“よみまつがい”

 

 たっくんは元気いっぱい国語の音読の宿題中。白熊の親子のお話。“二人とも、生まれたときは りすくらいの大きさだった。それが、かあさんの ミルクを まい日 たっぷり のんだから、ぐんぐん そだち、いまじゃ これ このとおり。二人が 生まれてから、もう 百年は たつね。・・・・”ばけものか、このくまたち・・・

 

“父との絆”

 

 仕事で帰りが遅くなった夜、みんなに遅れて夕食をとったが、味噌汁を飲む気が起きなくて残してしまった。たっくんがそれを見て、“やっぱりたっくんはおっとうの子だ!”“なして?”“たっくんも味噌汁残した!・・・・・・・・偶然かあ”。

 

“母との絆”

 

 “ねえねえ、おっかあ。たっくん、おっかあのおなかん中で、たっくんのちんちんとつながってたんでしょお?”ひとしきり笑い転げたあとで、おっかあが“タックンのおへそと、お母さんのおへそがつながってたんだよ。”・・・どっちも間違ってる。

 

“英語の勉強”

 

 “たっくん、おとうさんは?” “father!” “おかあさんは?” “mother!” “男の兄弟は?” “brother!” “女の兄弟は?” “まや!” “おじさんは?” “・・・・・” ここでまやからヒント。“お魚の名前に似てるよ!” “あんこう!” いい発音だ・・・。

 

“居直り”

 

 たっくん、おっかあに怒られてる。“あんたっ!なによっ、これっ!足の踏み場もないじゃないっ!これじゃ掃除機、かけられないじゃないのよう!”・・・・・“たっくん、さばき上手でしょお〜!”・・・・おっかあ、絶句。

 

“博識”

 

 “たっくん、ものしりだね〜”と同級生にほめられた。“まあねっ!勉強はできないけどっ!”

 

“のりのり”

 

 “おっかあ、車に乗っている〜。たっくん、調子に乗っている〜。”

 

“遊びじゃない”

 

 たっくん、またおっかあに怒られてる。“たっくん!あんったっ、いつまでそやって、テレビ見て遊んでんのっ!宿題は?コラショは?赤ペンは?”・・・・“あそんでないもん!くつろいでるんだもん!” 

 

“ふざけんな、このやろう!”

 

 金曜日の朝、学校に出発の時間が押しているのに、たっくんたらふざけまくって、準備をなかなかしない。おっかあに怒られ怒られ、やっと出撃!たっくん、ぱっと振り向いて、“たっくんどうだった?・・・ふつーむかつくよね!”わかってんならやるな!

 

“弟との絆(久々のまや登場)”

 

 ある日の朝食。まやの上着から下着がのぞいている。前後、逆。“まや!それじゃあ、たっくんとおんなじじゃないのぉ!”・・・。まやがぼそっと、“たまに感じる・・・、血のつながり・・・”。

 

“片付け魔”

 

 ついこの前まで、まやとたっくんの部屋はぐちゃぐちゃ。ある日まやが、ず〜と昔から放置してあった雑誌“すてきな奥さん”をたまたま見つけて読んだ。“汚い部屋がスッキリ片づく収納の小さな習慣100”に感動した。途端に子供たちの部屋がきれいになった。たっくんが泣いている。“宿題がな〜い!”。頼みもしないのに、おっかあの机の上も片付ける。おっかあが叫んでいる“通帳がな〜い!”。ありゃ、片付けじゃない。ともかく積み上げる。すき間に突っ込む。確かに見た目はきれいだが、どこに何が入ったかさっぱり解らない。今朝は、建設会社からの2,000万円の“請求書がな〜い!”。ともかく、いいかげんにしてくれ・・・。

 

2009

 

“まやのお手紙 Part 2

 

 ある朝、妻がニコニコしながら、“ねえ、ねえ、これ、見てっ”って言いながら、不燃ゴミのごみ箱に僕を呼び寄せた。そこには、古くなってしまった娘のまやのお気に入りだったピンクの運動靴が揃えて置いてあり、その上に小さなメモ用紙に書いたお手紙が乗せてあった。妻が言った。“いつのまに、こんなもの・・・”

 “くつへ。いままでつきあってくれてありがとう。元気でね。さようなら。”

 ああ、まやは、ほんとに優しい、いい子だ。

 

“たっくん水没”

 

 5歳のたっくんは水辺が大好き。ゴールデンウィークの直前、ばあちゃんちの裏の小川で、カモに餌をやっていて、足を滑らせて、水没。数日後、家族みんなで釣り堀に行った。たっくんは、釣り堀のニジマスをのぞき込んでいて、足を滑らせ、水没。助けに飛び込んだ私のデジカメは全損。妻の携帯は即座に電池を抜いて暖房で1日乾燥させて、復活。数日後、たっくんはお風呂で足を滑らせ、水没。数日後、たっくんは私のバドミントン仲間とのジンギスカンパーティーで、公園の池に、足を滑らせ、水没。数日後、たっくんはプールで泳いでいて、ビート板から手を滑らせ、水没。数日後、またまたお風呂で足を滑らせ、水没。

 たっくんは、これだけ驚異的な水没回数を誇りながらも、プールに行くことをやめない。“いつかお魚と一緒に泳ぐの!それから、カニを捕まえてペットにするの!”ただ、顔を水に漬けるのだけは、かたくなに拒否し続けている。わが家の水没小猿が、海猿になる日はまだ遠い。

 

“さこないだ”

 

 たっくんが妻に向かって、“さこないださー、さこないださー”って繰り返すけど、なんだかわかんないので“さこないだってなによお”って聞き返したら、“さらいしゅうってゆっしょー、だからあ、さこないだ!”と強めに主張するたっくん。そおか、こないだよりもさらに過去を指して、さこないだかあ。これはおもしろい。それ以降“さこないだ”はわが家の標準語となった。

 具体的使用例

妻:今度のたっくんの運動会のお弁当、こないだとおんなじでいい?

夫:こないだもさこないだもあるまい?一回でも違ったもの作ったことあるんかい?

 

“修業”

 

 お買い物に行った時の事。スーパーの屋根に積もった雪が、解けて軒下に大粒の滴となって垂れている。たっくんは、ジャンパーのフードをかぶって、わざわざその直下に立って、滴を受けてビシャビシャになっていた。“たっくん、あんた、何やってんのう!”妻が怒鳴りつけた。たっくんは、満面の笑みを浮かべて、一言、“しゅぎょう”。妻の怒りは一瞬にして消え去った。しばし、爆笑・・・。

 

“おもらし”

 

 たっくんはもうすぐ小学生。でもまだ時々失敗する。こないだも、“パンツ、濡れちゃった。ど〜してかわかんないんだけどぉ〜、濡れちゃった。いつ濡れちゃったかわかんないんだけどぉ〜、濡れちゃった。”と妻に主張して譲らない。“お漏らしちゃった。ごめんなさい。”の一言が、ど〜してもいえない。まあかわいいこと。

 

“水中モーター”

 

 たっくんが500ccのジュースのペットボトルとコーレーグースーの空瓶をもって来て、“これ、くっつけてっ”って言う。くっつけたら、銀河英雄伝説に出てくる帝国軍巡航艦に何となく形が似てて、いい感じだったので、ハーメルン・ツバイと名付けてやった(ここら辺りを説明し出すとあまりにオタクなので、あえてやめとく)。さてこれをなんとか走らせてみたくなるのが男の子のサガで、釧路の模型屋でデッドストックになっていたマブチの水中モーター(水密構造になっている魚雷型のモーターユニット)を買ってきて、吸盤でペタってくっつけて、お風呂で走らせてみた。激走!爆走!猛スピードで走りまくる。子供たちは大喜びだ。さて、お風呂には、子供たちが赤ちゃんの時に買った、ソフトビニール製の水の生き物達が、捨てられないで置いてある。カレイやら、ラッコやら、アヒルやら、果ては洗面器まで、激走!爆走!猛スピードで走りまくる。これはおもろい!久しぶりに小学生気分!・・・・。そうこうしてるうちに、吸盤がぽろっと外れて、水中モーターは単独で湯船の底を、それこそ魚雷のように狂ったように走りまくり、僕の股間を直撃した揚げ句、陰毛にスクリューを絡めてやっと沈黙した。僕の悲鳴とともに、子供たちの笑い声が当分収まらなかった。あまりの騒ぎに風呂場をのぞき込んだ妻。“な〜にやってんの”。と覚めたコメント。女のおまえにはわからん!このおもろさは!

 

“死ぬ気”

 

 うちの甥っ子のハンドボールのチームが、全道大会で優勝して徳島の全国大会に遠征することになった。妻が、お祝いのメールを打ったら“これからできるだけのことをやって、全国大会では完全燃焼してくるぜっ”って返事をよこしてきた。妻と一緒になって、“かっこい〜ね〜、この子達も死ぬ気でがんばるって時が来るのかね〜”なんて甥っ子を褒めちぎっていたら、たっくんが、“たっくんだってがんばったもん!おぼれた時とか。釣り堀で!”って間抜けなことをぬかしおる。あのね〜、死ぬ気でがんばるのと、死にそうだからがんばるのと、ぜ〜んぜん意味が違う!

 

“まやの不満”

 

 この随想へのまやの登場回数がめっきり減った。“なんでまやの事書いてくれないの?”と、まやが不平を漏らす。“まやはもうずいぶん大人になって、天然ボケが少なくなったからだよ。むしろ喜ばしい。”と言ってやったが、まやの不満は収まらないようだ。ただ、本当だから仕方がない。たっくんも、もう小学生だ。笑えるネタが無くなるのも時間の問題だ。寂しい限りである。

 

2010

 

“いらぬ心配”

 

 ある夜、まやの左手に歯ブラシ、右手にヒルドイドソフト・・・。“ちょっと、ちょ、ちょちょ、ちょ・・。”他に言葉が出なかった。かつてねぼけてビオレで歯を磨いた辛い思い出が頭をよぎった。香料の味が半日口から抜けなかった。必死で止めにかかっただけ。まやは、歯を磨こうと思ったけど、風邪で鼻をかみすぎて鼻の下がひりひりしてたから、まずはヒルソフを塗りたかっただけ・・・。

 

“傑作!”

 

 たっくん突然曰く・・・“あ〜たてんきにな〜あれっ!”

 

“すっぱい・しょっぱい”

 

 小学校2年生になったたっくんは、いまだに“すっぱい”と“しょっぱい”の区別がつかない。ある朝、朝ご飯を食べながら、教育。「“すっぱい”は“酢”の味だから“すっぱい”!“しょっぱい”は“塩”の味だから“しおっぱい”!」「それじゃ“おっぱい”はぁ?」思わず食べてたヨーグルトを噴出・・・。馬鹿野郎!

 

“各人各様”

 

 わが家はみんな、お笑い番組、“レッドカーペット”の大ファン。おっとうは、涙でグシャグシャになって大笑い。おっかあとたっくんは、こめかみを押さえて、“あごが痛い〜”とのたうち回っている。まやは“124秒!”。キッチンタイマーでネタの時間を測っていた。それであんた、楽しいの?

 

“カルピス中毒”

 

 たっくんは、こいつは、と思う友達が家に遊びに来た時には、手料理を振る舞う。まずホットめんみ。自分がおなかが空いたときに編み出した逸品。めんみを水で薄めてレンジでチン!やがて、食器棚の食料ストックからインスタント味噌汁を見つけ出すと、これが次のお気に入りに。そして今日の傑作は・・・。親友のまなとが遊びに来た。流し台の上には、なんと懐かしい、瓶入りのカルピス。たっくんはコップを2つとり出し、“カルピス飲むか?。”うん!“。びんのフタを開け、景気よくコップに注いで、二人で乾杯。”うまいか?“。”・・・う〜ん、びみょ〜。ちょっと薄めた方が良くない?“。とか言いながら、結局全部飲んでしまった。カルピスの原液・・・。晩ご飯の時、”たっくん、今日あんまり食べてないけど、もう腹いっぱい!“と言った事からこの事実が発覚。何杯もつくれるはずのカルピスが、瓶の底に少しだけ・・・。今どきの子供たちは、カルピスはペットボトルから直接飲むもの。この夜たっくんは、裸で歌いながら走り回るやら、だじゃれを連発するやら、強烈なハイ状態で手に負えず・・・。カルピスに、そんな作用があったとは・・・。

 

“あおさぎ、わかさぎ”

 

 海上保安庁第一管区の飛行機YS-11が引退してボンバルディアが採用された。YS-11(ワイエス・イチイチが正式名称なのだ!)。大東亜戦争で活躍した多くの軍用機を開発したスタッフ達が手塩にかけた名機の中の名機が・・・。あと100年は飛んでて欲しかった。実際、軍用機の発想で設計されたから、めちゃくちゃ丈夫だし、メカの問題で起こした事故は皆無に等しかった。頑丈さを追求するあまり、重くなりすぎて結果的にパワー不足、パイロット達の評判はあまり良くなかったらしい。オタッキーでスンマセン。それはそれとして、海上保安庁は後継機のボンバルディアの愛称を募集中、と新聞に。北海道にちなんだ鳥の名前。エトピリカとタンチョウ、オジロ(オジロワシの事)はもうあるからダメなんだって。そこで、まやとたっくん。まやはアオサギ!“。”じゃあ、たっくんは、ワカサギ!“。たっくん・・・。それ、さかな・・・。

 

“究極の呪文”

 

 今日は自衛隊第5旅団の一般開放日。ヘリコプターから6名の隊員が見事なパラシュート降下を披露。まやが“やってみたいなー。”“でも、あれ、飛び降りる瞬間、めちゃくちゃ怖いよ!”“漫画なんかであるよね、飛び降りたけど、パラシュートつけてなかったり、ひも引っ張ったら洗濯物だったり・・・。”“ねえ、まや、そういう時、なんか適当な呪文ないの?(まやは、ハリーポッターの魔法の呪文にやたらと詳しい)”う〜ん・・・南無阿弥陀仏・・・。“さすがのまやでもお手上げか・・・。

 

“時代は進む”

 

 たっくんと口論になった。目玉が望遠鏡のようになっている深海魚がいて、ボウエンギョという名前だそうな。聞いた事が無かった。“そんなのいねーよ!”

って強めに言ったら、早速たっくんは魚の図鑑を持ってきて、その存在を見せつけた。昔の小学館の魚の図鑑をぼろぼろになるまで読んでいたので、ギガントウラ・チュニ、と言う魚がいることは知っていた。今の図鑑では、ギガンツラ科のボウエンギョとの和名が付いている。時代は変わる。昔チョウチョを追いかけていた時に、高校の生物クラブのめちゃ古い蔵書に、今ではツマベニチョウと呼ばれている南方系のチョウチョに“フヒリピンテフ(フィリピンチョウのこと)の名前が振ってあった。ひたすら笑った。同じことが今ここでおきている。ツツガムシ病の病原体の学名も、リケッチアでなくてオリエンチアになっている。変化についていくのは大変だ。たっくんに完敗。いい勉強になった。

 

“謎の年賀メール”

 

 “昨年からメールを使える様になりました「2010年明けましておめでとうございます」を入力している時に,年賀状が届きました。医者の不養生には気を付けて下さい(二日酔いに負けるな)。”この文章の各所に、流行りの絵文字が20個以上ちりばめてある、年賀メールが届いた。差出人不明。いたずらメールにしては、僕のことを知り過ぎている。“ところで、あなただ〜れ?”と返信したら、正体判明。“スペースシャトル(札幌のバドミントンサークル)のKさんか〜”。と言ったら、たっくんが目をキラキラさせて、”宇宙飛行士?と、とんまなことを言った。赤帽の運転手だ。あの乗り物では、どうがんばっても宇宙にはいけない。動力を波動エンジンに装換しても、強度不足で瞬時に四散するに違いない。たっくんは相当がっかりしたようだった。宇宙飛行士の友達、いる訳ね〜だろ!

 

“伝染(うつる)んです!”

 

 土曜日の夜、キムチ鍋を食べながら、お気に入りのお笑い番組“爆笑レッドカーペット”を、例によってゲラゲラ笑いながら見ていた。お笑いと言えばやっぱり関西!機関銃弾のように乱れ飛ぶ関西弁!・・・まやが、まだ火の通ってない具に手を出そうとした。おっかあが、“まやっ!何してんねんっ!まだ、火、とってないやろっ?せっかちやな〜”おっかあは帯広生まれの、道外生活経験の全くない、生粋の道産子・・・。“おまえ〜、いつから関西人になったんじゃ?(微妙に広島弁)”“べつにえやろっ!せやろっ?”すぐにでも大阪で暮らせる・・・。

 

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